はばたけ、高島ネット倶楽部
その後、理事の佐藤は理事長をはじめとした理事会の面々をどうにか説得、半年間の猶予期間を獲得。
結成から3ヶ月が経ち、高島ネット倶楽部の活動は予想以上に順調に成長していた。
リポーターの内田と華川の超高齢コンビが小樽市内の観光名所や物産店、飲食店などに押しかけ勝手に紹介していくスタイルが、
世界のお茶の間の評判を呼んだのだ。小樽への観光客数は3ヶ月で倍増し、観光局への問い合わせも連日パンク状態だという。
企業CM登場やキャラクターグッズ化の打診もあり、順風満帆な滑り出しである。
ある日、高島地区の人気レストランを紹介し終えた高島ネット倶楽部の部員たちは、その足で小樽市の観光局へ向かった。
ついに、お呼びがかかったのだ。
副部長の大木はここ数日、オンラインゲーム「かもめ」にのめり込んで部屋から出てこないため、
理事の佐藤、部長の高橋、リポーターの内田・華川、雑用係の山田の5人での訪問だった。
「ぶ、部長の高橋です…」高橋は、いつになく緊張していた。
「この高橋が、皆をまとめて引っ張ってくれたから頑張れていますのよ。」
華川のフォローは相変わらずさりげなく、華麗だ。
高島ネット倶楽部、観光大使に!?
「北海道知事の、大倉です。」
観光局長の横にいた男性が、高橋に歩み寄って握手を求めた。
「いやはや、知事さんのお出ましですか、いやこりゃ、まいったなっ。」
高橋の緊張はピークに達していた。
「これだから男どもは頼りにならん。
ゲーム中毒にあがり症ときた。なあ華川さんや。それで、わしらにどうしろと?」
最年長の内田は、相変わらず堂々としている。
「ええ、高島ネット倶楽部の皆様には、北海道の観光を世界に宣伝する
観光大使になって欲しいのです。受けて頂けますよね?」
「はぁぁ…!なんとまあ…!」
高橋は、感極まってその場に座り込んでしまった。
「高橋さん、お漏らししちゃいましたね。一緒におトイレに行きましょう!」
すかさず、高橋を連れて出る職員の山田。
こうして、ついには北海道の観光大使にまで登りつめてしまった「高島ネット倶楽部」。
古典的な手法で町おこしをしようとして、王道のヴィクトリーロードを歩んだ
老人たちとして、不況にあえぐ日本国民を勇気付けたのだった。
1週間後、「ニコニコホーム高島」では緊急の理事会が開かれていた。
もちろん、「高島ネット倶楽部」の面々も出席。ゲーム中毒の大木も、2週間ぶりに部屋から出てきていた。
「高島ネット倶楽部のみなさんのおかげで、ニコニコホームの閉鎖は回避されました。
今後は高島ネット倶楽部を施設ぐるみで運営し、入所者の皆さんにも協力してもらいながら更なる経営の改善を目指します。」
理事長は、佐藤の肩を軽く叩きながらこう付け加えた。
「そして私は、今月をもって理事長の職を退きます。後任は、理事会の全会一致で佐藤君に決定しました。…頼んだぞ、佐藤君。」
「いやあ!めでたい!今夜は宴だぞ!」大木は小躍りしながら楽しそうにしている。
「大木さん、今日は「かもめ」をやらなくて良いんですの?」
華川も、久しぶりに出てきた大木を見て嬉しそうだ。
「わしが乾杯の音頭をとろう!」
高橋は、ここぞとばかりに祭り装束で身を固めている。
「夜勤の予定はないけど、私も参加します!」
職員の山田も満面の笑みで、元から細い目がさらに細くなっている。
「佐藤さんに感謝だわぁ。」内田も、満足げに何度も頷いている。
「さあ皆さん、その前に夕方の高島体操をしましょう!」 佐藤は、これまでに感じたことの無い達成感で満たされていた。