高島ネット倶楽部設立

高橋

高橋雄一、84歳。
建設会社の元社長で、定年を迎えた4年前から「ニコニコホーム高島」に入所している。
入所者全体の中では若手だが、人望が厚く、ホームのリーダー的な存在だ。
その高橋が、今日はいつにも増して高ぶっていた。

「このまま黙って追い出されてたまるものか!皆で協力して、ホームを立て直そうじゃないか!」
「そうだ、せっかく入所したんだぞ!今さら公営施設で囚人同然の暮らしなんて出来るものか!」
さきほど入居したばかりの大木も、力強く同意していた。

佐藤は、気持ちをぐっと抑えてこう言った。
「高橋さん、お気持ちは良く解りますよ。私も同じです。でも、どうしようもないんですよ…」

「どうしようもないだなんて、何故わかる?お前より何十年も人生やってきた連中がこれだけいるんだぞ。良い知恵がでるはずだ!」
「高橋さん、貴方チョット言い過ぎですわ。彼にも立場がありますのよ。」
入所者の間でマドンナ的存在の華川明子、89歳。彼女が、すかさずフォローを入れる。

「でもな、華川さん…」高橋は、言葉に詰まってしまった。


希望の糸口

華川

「斉藤さんや、こういうのはどうか?」
しばらくして、大木が口を開いた。

「いや、わしは高橋だよ。」
「失敬。ネットだよ、ネット。皆で倶楽部を作って、小樽と高島を世界の皆さんに紹介するんだ。」

オンラインゲーム中毒の大木らしい提案だが、インターネットを活用した古典的な手法は、
他の入所者にも受け入れやすいものだった。

「わしはこう見えても若い頃ウェブデザイナーをしていたんだよ。
斉藤さんも社長だったんだろ?ほれ、人脈を使って宣伝だ!」

「いや、わしは斉藤じゃなくて高橋だよ。でも良いアイデアーだなあ。」
まんざらでもない様子で高橋は答えた。

「小樽の案内なら任せておくれ。わしゃバスガイドさんだったからの。」最年長の内田が、メインリポーターを買って出た。
「わ、私も一緒にやります!皆さん腰が悪いし、私が雑用を!」途中から駆けつけて来ていた職員の山田も、乗り気だ。
「あらあら、みなさん気持ちだけはお若いんだから。私も参加しますわ。」マドンナの華川も、微笑みながら賛成した。

佐藤は、決めた。
こうなったら最後まで、入所者たちを応援しようと。それが理事としての自分の務めだ。
「…わかりました。来週の理事会で、理事長達に伝えます。いつまで持ち堪えられるかわかりませんが、一緒にがんばりましょう!」

こうしてこの日、「ニコニコホーム高島」3階集会場にて、「高島ネット倶楽部」は設立されたのだった。
部長は高橋、副部長は大木だ。その日の夜、入所者たちの作戦会議は遅くまで続いた…